引用:100万円が水の泡になるところだった」お金のプロが投資先の経営破綻の直前に嗅ぎ取った”ヤバい予兆”
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投資先を直観で選んでしまい失敗した経験を持つ人も多いのではないだろうか。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「私もそうでしたが、直観で引かれてしまうと、悪い情報が脳に届かなくなります。直観には直観で対抗するしかないのです」という――。
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■配当利回り3%、高級和牛肉もプレゼント
1990年代から2000年代にかけて、和牛オーナー投資がちょっとしたブームでした。
ただ、私が興味を持った2000年代半ばには、多くの和牛オーナー制度はすでに破綻しており、世間では「和牛オーナー投資は怪しい」とのイメージがまとわりついておりました。
しかし私は果敢にも、そんな和牛オーナー投資に約100万円もの投資をしたのでした。
なぜ、果敢にも投資ができたのか? してしまったのか? ……それは、やっかいな「心のクセ」によるものでした。
和牛オーナーになって配当利回り3%、契約特典として高級和牛肉もプレゼント。
ふと見たマネー雑誌にて、そんな魅力的な広告が大きく掲載されていました。
当時、投資系ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)として独立間もなく、さまざまな投資案件にアンテナを高く張っていた私は、「和牛オーナー、何それ? 面白そう!」と、和牛オーナー投資という聞きなれない投資に大いに興味をそそられるのでした。
もちろん、3%もの配当利回りや、契約特典の高級和牛肉も大いに魅力的でしたが、「和牛オーナー投資」との響きに、直観でビビッときたのでした。和牛オーナーになるなんて、なんて面白い投資なのだろう、とワクワクするのでした。
もちろん、そんな直観のまま、何も考えずに投資をしたわけではなく、FPとして、そして投資のプロとして、それなりにリサーチはしました。当時、和牛オーナー投資ブームにはすでに陰りが見えており、というか、冒頭でも書いたように、すでに「怪しい投資」とのイメージも強く、当然、不安も大きかったわけですから。
■情報収集するも詐欺情報は脳に届かず
ただ、私の気持ちはすでに「前のめり」となっており、心の中はとっくに、「和牛オーナーになりたい(投資をしたい)」との思いで溢れておりました。なので、いろいろリサーチしたとはいえ、それは、「自分の背中を押してくれるような情報」ばかりを取りに行っている状態だったのでした。
リサーチは基本的に、インターネット中心に行いました。
当時、和牛オーナー投資はすでに「怪しい投資」認定されているような状態でしたから、当然、「和牛オーナーはすべて詐欺ですよ」「もうすぐ破綻しますよ」といったネガティブな情報もたくさんヒットしました。しかし、そんな情報は、すでに前のめりとなっている私にとって、目には入ってはきても、脳には届かず(というかシャットアウト)の状態だったのでした。
ちなみに、私が投資を検討していたのは、和牛オーナー最大手の「安愚楽牧場」でした。
私は、その安愚楽牧場に好意的な情報ばかりを集めていたのでした。
■あの手この手で、安愚楽牧場への投資を正当化
ただ、安愚楽牧場に好意的な情報の発信源のほとんどは広告・宣伝絡み、もしくは、安愚楽牧場に実際に投資している人たちのコメントでした。すなわち、好意的な情報の多くは、明らかにポジショントークだったわけです。
そして、それには私も薄々気づいてはおり、好意的な情報に心地よく浸るも、そこには若干の後ろめたさも感じてはおりました。
そんな中、「26年間無事故(配当等の遅延等なし)」という客観的な情報を見つけたときは、宝物を発見した気分にもなり、大いに勇気づけられました。そして、安愚楽牧場は和牛オーナー制度「最大手」という、客観的情報にも大いに勇気づけられました。
また、すでに多くの和牛オーナー制度が破綻していたことには、「多くの和牛オーナー制度が淘汰されてきた中、今、安愚楽牧場が生き残っているということは、きちんとしたところだという証しだ」と、好意的に解釈するのでした。
さらに言えば、某有名マネー雑誌に広告が掲載されていたことには、「大手メディアの独自情報網を使って、相当厳密に調査しているはずだ」と、都合よく判断しました(実際のところは不明)。
すなわち、(安愚楽牧場に)都合の良い情報を集めるだけでなく、その状況を都合良く解釈するなど、とにかく、安愚楽牧場への投資を正当化するのに必死だったわけです。
■直観で引かれてしまう、やっかいな「心のクセ」とは?
今回テーマの「心のクセ」とは、まさにこのことです。
すなわち、直観で引かれてしまうと(投資したいと思ってしまうと)、どうしても都合の良い情報ばかり目に入ってくるわけで、また、その状況を都合良く解釈してしまうわけです。逆に言えば、都合の悪い情報(解釈)はシャットアウトしてしまう、とも言えるでしょう。
無意識に、その投資を徹底的に正当化しようとするわけですね。
もっとも、それは今回の和牛オーナー投資(安愚楽牧場)に限らず、投資全般に言えることです。
とくに、直観で引かれた(ビビッときた)場合であれば、なおさらです。
なので、個別株式投資にこそ、この「心のクセ」には気をつけるべきかもしれません。
なぜなら、個別株式投資の場合、実際に当該銘柄(企業)の店舗や商品を実感・体感できるので、「このお店大好き」「この商品大好き」と、直観で惹かれやすい(ビビッときやすい)と言えます。
銘柄に惚れるな、との格言があるのも、うなずけるわけです。
■直観に対抗するには「ヤバい直観」を得るしかない
では、そんな「心のクセ」に対抗するには、どうすれば良いのでしょうか?
月並みな結論を言えば、冷静に、フラットな気持ちで情報を収集して、客観的に判断することです。
すなわち、都合の良い情報だけを見るのではなく、都合の悪い情報にも目をつぶらずに、しっかり対峙(たいじ)することです。
でも、それが簡単にできれば苦労しませんよね。
実は、(安愚楽牧場の情報をリサーチしていた)当時の私は、自身が、都合の悪い情報から目を背けていたことは、薄々と分かってはいました。しかし、分かってはいても、すでに和牛オーナー投資に前のめりだった私は、安愚楽牧場への投資を正当化するため、どうしても目を背けてしまうのでした。
それくらい、直観での魅了は抗いがたいものでして、そんな前のめりな状態で、都合の悪い情報と対峙することは、本能に抗うことであると言っても過言ではありません。
なので、直観には直観で対抗するしかありません。
それはすなわち、これは都合の悪い情報も見ておかねばマズいかも……と思えるくらいに「これはヤバいとの直観」を得ることです。
■特典がドンドン豪華になってきたことに“ヤバいとの直観”
私の場合、安愚楽牧場に投資してから数年経った頃、幸い、「これはヤバいとの直観」を得ることができました。
それは、新規(継続)契約特典がドンドン豪華になってきたことでした。
特典が豪華になることは嬉しいのですが、直観でヤバいと思ったのが、メロンやギフトカード、演歌歌手のコンサートチケットなど、お肉とは関係ない特典が増えてきたことでした。
これはどう考えても、牧場側にとっては大きな負担です。
お肉以外の特典がドンドン出てきたことに、そこまでして(豪華な特典で釣ってまで)、新たな契約を取らないと、また、今の契約をつなぎ留めないといけないのか、そんなに切羽詰まった状況なのかと、急に不安になってきたのでした。
そう思い始めると、居ても立っても居られませんでした。
そして、これは「都合の悪い情報」も見ておかねばマズいと思い、おのずと、それまで目を背けていた都合の悪い情報も、しっかり確認するようになったのでした。
すると、「口蹄疫の隠蔽(いんぺい)工作」「管理上の法令違反」等といったネガティブな情報(事実)が次から次へと出てくるわで、さらには「自転車操業の疑い」についても、かなり信憑性の高い情報が出回っているのでした(後日、自転車操業も事実であると判明)。
そして、これまで目を背けていた、それらネガティブな情報の圧倒的な質・量と対峙した結果、さすがにこれはダメだと思い、契約更新はせず、全資金を引き揚げました。
そしてその後すぐ、安愚楽牧場は破綻し、幸いにも、ギリギリのところで助かったのでした。
もし、都合の悪い情報に目をつむり続けていたら、そのまま契約は続けており、大きな損害を被ったことでしょう。
■都合の悪い情報と真に対峙できなければ投資はしない
私の場合、「これはヤバいとの直観」は、契約特典がドンドン豪華になってきたこと(お肉以外の特典がドンドン出てきたこと)」でしたが、その直観は、人それぞれです。
それは、たまたま目にした「ネット上での、自転車操業の疑い」かもしれませんし、ふと耳にした「業界内での、肉の品質の悪さについての酷評」かもしれません。
いずれにせよ、「これはヤバいとの直観」、すなわち「都合の悪い情報に向き合う、強烈な動機付け」がないと、都合の悪い情報はスルーするものです。
とりあえずは目に(耳に)入っても、心にまでは届きません。
しかし、都合の悪い情報としっかり対峙しないと、最悪の結果になる可能性もあります。実際、前述の通り、安愚楽牧場は破綻したわけです。
私の場合、運よく、「これはヤバいとの直観」を得ることができ、都合の悪い情報にしっかりと対峙することができました(投資をしてしまってからではありますが)。
しかし、そんな「ヤバいとの直観」が得られず、都合の悪い情報にしっかり向き合うことができていない場合は、それがどれほど魅力的な投資であっても、その投資は避けた方が賢明かもしれません。
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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)
ファイナンシャルプランナー
1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。
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