サブリース契約とは不動産投資における家賃保証を意味します。
サブリース業者が、たとえ物件が空室だったとしても、月々の家賃を事前の取り決め通りの金額で振り込んでくれるという契約であり、不動産投資初心者にはとても親切な契約に見えることが特徴です。
しかしながら、サブリース契約にはたくさんの問題点があり、近年トラブルは急増中です。本記事ではサブリースにどういったトラブルがあるのかについてご紹介していきたいと思います。
消費者庁も注意喚起しています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_011/
借地借家法によりオーナーよりもサブリース業者の権利が守られる
改めてサブリース契約の概要をお伝えしましょう。
一般的に、不動産の賃貸では物件の所有者(オーナー)が入居者と賃貸借契約を結び、入居者から家賃を受け取ります。
一方、サブリース契約というのは、不動産会社が物件をオーナーから借り上げ、入居者に転貸するシステムです。不動産会社は入居者から家賃を受け取り、その一部をサブリースの保証賃料としてオーナーに支払います。
サブリース契約を結ぶと、安定した賃料収入が不動産会社によって保証され、入居者対応もすべて不動産会社が行ないます。
サブリース契約は不動産会社が物件を借り上げてくれるため、契約上は不動産会社が物件の入居者という立て付けになります。つまり借地借家法の関係でサブリース契約を結ぶと同時に、オーナーはかなり不利な立場に立たされます。
家賃の決定権はサブリース業者にある
一方サブリース契約では一般的に2年おきに契約家賃改定のタイミングが設定されており、このタイミングで家賃が下がる可能性が非常に高いです。
理由は、借地借家法第32条(借賃増減請求権)により、サブリース契約における家賃の決定権はサブリース業者(不動産会社)にあるため、物件の老朽化や地下の下落などを理由に保証家賃の減額を申し出られた場合、オーナーは従うしかありません。
借地借家法では賃借人(サブリース業者)の方が権利が守られているため、こういった結果になってしまいます。
サブリース契約の解約も難しい
であれば、サブリース契約を解約すれば良いと考えるのが普通ですが、実は解約するのはとても難しいのです。
結論から言うと
- 借地借家法上の正当事由が備わった状態での期間満了による更新拒絶(期間満了の1年前から6ヶ月前に告知)
- サブリース業者との合意又はサブリース業者からの更新拒絶による解約
のどちらかに当てはまらないと解約できません。①においては、正当事由というのは裁判の判断に委ねられますが、概ね賃借人に有利な形で決着します。具体的には立退料という名目で金銭の支払いが必要になります。立退料は家賃の6ヶ月~12ヶ月とする場合が多く、家賃10万円なら、60~120万円となります。立退料の支払いが難しい場合は、サブリース契約を継続するしかありません。
②の場合は、サブリース業者から更新しない旨が伝えられているので、特に問題にならないので、多くのトラブルは①のケースになります。
サブリース契約の解約というのは、借地借家法上では入居者を追い出す、という考え方になります。オーナー都合で入居者を簡単に退去をさせられると、入居者は社会生活を送ることが困難になります。これが個人宅ではなくテナントの場合は、経済活動も安心して送ることができません。そのため、借地借家法では入居者を手厚く守る方向で調整されています。
サブリース契約では物件売却も困難かつ売却額も下がる(収益還元価格)
サブリース契約はそもそも解約が非常に難しい契約です。それでも家賃保証額を一方的に下げられて毎月赤字を垂れ流すくらいなら、いっそ売却を検討する、と言う考え方もあります。
しかし、売却する上でもサブリース契約は足枷となってきます。
銀行融資がつきづらい
サブリース契約では物件の入居者は書類上、サブリース業者です。しかし実際の入居者はもちろんサブリース業者ではなく、サブリース業者が客付けした一般の入居者になります。しかし、サブリース業者はこの入居者の情報を開示する義務がありません。
そのため銀行は物件の評価をしようとしても、入居者の情報がわかりませんから融資を出しづらいという事情が発生します。
万が一入居者が反社会的勢力の人間だった場合、銀行としてはコンプライアンス上の問題が発生します。もちろんその可能性は低いとはいえ、入居者情報がない場合はそういった事態も考慮しないといけなくなるのです。
物件に対して融資が出なければ、当然売却先の投資家も物件を購入できませんから、結果として売却が難しい物件を保有してしまうことになります。
物件価格が下がる
サブリース契約では、家賃の10~20%のサブリース手数料がかかります。10万円の家賃であれば、オーナーの受け取れる家賃は8~9万円と言うことになりますね。
ここで不動産の物件価格の鑑定評価法についてご説明します。
不動産の物件価格の査定方法はいくつかありますが、収益還元法という手法が一番メジャーでしょう。
収益還元法
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと予測される純収益の現在価値の総和を求めることによって、対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法です。
サブリース契約ではサブリース手数料の関係で、該当物件を購入してから、将来に渡って得られるであろう家賃収入の総額は実際の相場家賃よりも10~20%下回ることになります。
つまり、仮に全く同じ条件の物件が存在し、サブリース契約ではない場合、その物件よりも得られる家賃総額は10~20%も評価額が低くなります。
このように物件売却の際にもサブリース契約はマイナスの影響を及ぼします。
※実際は単純に家賃だけで決まるわけでなく、周辺環境や空室率など、さまざまな要因が絡み合います。
不動産会社はサブリース契約を手放したくない
不動産会社はなぜこうも物件オーナーと揉めそうになるリスクを取ってまで、サブリース契約を手放さないのでしょうか。
サブリース契約はサブスクリプションビジネスモデル
不動産会社にとって、サブリース契約はサブスクリプションサービスのようなビジネスモデルです。これは不不動産会社にとって非常に画期的なビジネスと言えます。
サブリース手数料は毎月確実に入ってくる手数料で、数十年と言う非常に長期間に渡って手数料を得ることが可能になります。またサブリースの管理自体は業務量がそこまで大きくないため、集客コスト、競合他社との鬩ぎ合いが発生する物件販売よりも、確実性が高く収益を得られます。
仮に毎月1万円のサブリース手数料を35年に渡って得たとすると、420万円という金額になります。これは不動産物件を販売して得られる販売益と同等かそれ以上の金額です。1物件販売することで2物件分の利益が得られるとなれば、不動産会社は絶対に手放したくないと考えるのは当然でしょう。
携帯電話の月額利用料に似ていますね。解約しづらいようになっています。
サブリース業者にとってはリスクが低い契約
家賃を保証するということは不動産会社にとってもリスクのある契約と見えるかもしれませんが、実はそうではありません。
前述した通り、家賃の決定権はサブリース業者にあるため、物件の家賃を下げる必要が出てきた際には家賃保証額の減額も可能です。そのため逆ざや(サブリース業者が損をする)になることはほぼありません。
また、そもそもサブリース契約は賃貸需要があるから成り立つビジネスモデルです。都内のワンルームマンションは物件稼働率90~95%とも言われており、物件が長期にわたって空室になることは考えにくいと言えます。また、都内の好立地はすでにマンションを建てるスペースがかなり減ってきており、ライバル物件も出現しづらい、転入超過による人口増加など、こういった周辺環境により長期の賃貸需要が見込めます。
逆に言えば、これだけ賃貸需要が長期で見込める都内では、サブリース契約は必要ないでしょう。
皮肉なことに、サブリース契約を勧められるような物件ではサブリースが必要なく、賃貸需要が低くサブリース契約が欲しい物件では、サブリース契約は業者にリスクがあるため契約してくれません。
まとめ
このように、借地借家法により、サブリース契約は不動産会社にとって非常に有利な契約となります。
サブリース契約の唯一のメリットは、物件の空室時でも家賃が振り込まれる点にあります。これにより不動産経営の収支予測が立てやすくなります。また、複数物件を保有する場合は空室が重なると、まとまった手出しが発生しますが、サブリース契約ではそういった事態を回避できます。
メリット・デメリットをしっかり比較し、不安なことは営業マンに質問しながら、しっかり理解してから不動産投資を始めることをオススメします。